大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ワ)5844号 判決

奈良市中登美ケ丘二丁目一九八四番地の三七

原告

市口裕一

大阪府東大阪市横小路町五丁目三番四一号

原告

株式会社イチグチ

右代表者代表取締役

市口裕一

右両名訴訟代理人弁護士

天野勝介

八代紀彦

飯島歩

佐伯照道

中島健仁

森本宏

石橋伸子

内藤秀文

山本健司

滝口広子

成田由岐子

渡辺徹

児玉実史

生沼寿彦

中森亘

小瀧あや

右両名輔佐人弁理士

鳥居和久

鎌田文二

東尾正博

被告

三陽化工機株式会社

右代表者代表取締役

中埼卓

被告

柳瀬株式会社

右代表者代表取締役

柳瀬勇

右両名訴訟代理人弁護士

安若俊二

安若多加志

右両名輔佐人弁理士

小谷悦司

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告三陽化工機株式会社(以下「被告三陽化工機」という)は、別紙説明書記載の装置(以下「イ号装置」という)を生産し、譲渡し又は譲渡のために展示してはならない。

二  被告三陽化工機は、その本店、営業所、工場、倉庫などの事業所に存するイ号装置、その半製品、仕掛品を廃棄せよ。

三  被告柳瀬株式会社(以下「被告柳瀬」という)は、イ号装置を用いて研磨具を製造する方法を使用してはならない。

四  被告柳瀬は、その本店、営業所、工場、倉庫などの事業所に存するイ号装置を廃棄せよ。

五  被告柳瀬は、イ号装置を用いて研磨具を製造する方法により生産した物を譲渡し又は譲渡のために展示してはならない。

六  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  事実関係

1  原告らの権利

(一) 原告市口裕一(以下「原告市口」という)は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という)を有している(争いがない)。

特許番号 第一八一二八五五号

発明の名称 研磨具の製造方法およびその装置

出願日 昭和六三年五月一四日(特願昭六三-一一七九二二号)

出願公告日 平成五年三月二五日(特公平五-二一七一六号)

登録日 平成五年一二月二七日

特許請求の範囲

「1 受座上に裏面が上側となる中心に透孔を有する円板を供給し、そして上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を砥粒面が上側で、かつ側縁が互にオーバーラップして重なるように一定のストロークで中心方向に送り込み、そして集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置すると共に、結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挾持しながら供給前或いは供給後の上記円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に上記研磨帯を押し付け、然るのち各研磨帯の円板外周縁の外側部分を筒状の刃や旋回刃により切断し、接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出すことを特徴とする研磨具の製造方法。

2  (略)

3  (略)」〔別添特許公報(以下「本件公報」という。甲一)参照〕

(二) 原告イチグチ株式会社(以下「原告会社」という)は、原告市口から、本件特許権について範囲を本件発明の全部とする専用実施権の設定を受けている(平成七年四月二四日登録。争いがない)。

(三) 本件発明は、研磨具の製造方法にかかるものであり、その特許請求の範囲の記載は、次の構成要件に分説するのが相当と認められる(甲一。弁論の全趣旨)。

A 受座上に裏面が上側となる中心に透孔を有する円板を供給し、

B そして上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を砥粒面が上側で、かつ側縁が互いにオーバーラップして重なるように一定のストロークで中心方向に送り込み、

C そして集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置すると共に、結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら供給前或いは供給後の上記円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に上記研磨帯を押し付け、

D 然るのち各研磨帯の円板外周縁の外側部分を筒状の刃や旋回刃により切断し、

E 接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出すことを特徴とする研磨具の製造方法。

(四) 本件発明の効果について、本件発明の特許出願の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という)には、次のとおり記載されている(甲一)。「以上のように、この発明に係る研磨具の製造方法およびその装置によれば、放射状に配列した長尺な研磨帯を中心方向に送り込んで円板の接着剤塗布上面に重ね、そして加圧により接着剤塗布面に上記研磨帯を押し付けて接着すると共に、各研磨帯の円板周縁外側の部分を切断するので、研磨具の生産が著しく向上し、かつ均一な製品を得ることができる。

又円筒刃や旋回刃により研磨帯を切断するので、研磨シートの外周縁の一つのコーナーが突出した問題をなくすことができる。」(本件公報7欄7行ないし8欄1行)

2  被告らの行為(争いがない)

被告三陽化工機は、遅くとも平成五年秋頃から、イ号装置を生産し、販売している。

また、被告柳瀬は、平成六年春頃から、被告三陽化工機製のイ号装置を用いて研磨具を製造し、販売している。被告柳瀬がイ号装置を用いて研磨具を製造する方法(以下「イ号方法」という)は、別紙説明書二記載のとおりである。

二  原告らの請求

原告らは、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属すると主張し、これを前提に、イ号装置は本件発明の技術的範囲に属するイ号方法の実施にのみ使用するものであるから、被告三陽化工機がイ号装置を生産し、販売することは、本件特許権及び専用実施権のいわゆる間接侵害行為に当たると主張して、特許法一〇〇条に基づき被告三陽化工機に対してイ号装置の生産譲渡等の停止並びにイ号装置、その半製品及び仕掛品の廃棄を求め、また、被告柳瀬がイ号方法を使用することは本件特許権及び専用実施権を侵害するものであると主張して、同条に基づき被告柳瀬に対してイ号方法の使用の停止、イ号装置の廃棄、及びイ号方法により生産した物の譲渡等の停止を求めるものである。

三  争点

1  イ号方法は、本件発明の技術的範囲に属するか。

2  本件特許権は、いわゆる冒認出願に対して付与されたものであり、これに基づく原告らの請求は権利の濫用に当たるか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(イ号方法は、本件発明の技術的範囲に属するか)について

【原告らの主張】

1 被告柳瀬が使用しているイ号方法の構成は、本件発明の構成要件に対応して分説すると、別紙説明書二冒頭記載のとおり、概略次のようになる。

a 円板供給手段4により、上方部が開放状態の円板kを治具jに支持させた状態で基台1上面中央に移送して、基台1の受座21上に支持させる。なお、円板kには予め接着剤が塗布されている。

b 基台1に支持された円板の周囲から中央に向けて、研磨帯を送り装置3によって、所定幅の多数枚(通常六〇枚、七〇枚、八〇枚、九〇枚、一二〇枚の五種類)の研磨帯を一斉に送り込む。

c 加圧装置2を作動させて、円板kと、その上に送られてきた研磨帯tとを直接受座21と円筒状の加圧板53との間に挟んで押圧することによって、円板kと研磨帯tとを接着する。但し、接着剤は、乾燥して硬化するまで、完全な接着力を示さないため、この段階では、研磨帯tは簡単に外れる状態となっており、次の乾燥工程を経て完全に接着することとなる。

d 円筒状の刃受け52と円筒刃61とからなる研磨帯切断装置とにより、円板の周囲からはみ出している各長尺の研磨帯tを切断する。

e 加圧装置2を作動させて、上記cの押圧を解除して、研磨ディスク搬出手段8により、研磨帯Sが配列接着された円板を基台1外に運び出し、次の配列状態確認工程、及び乾燥工程を経て研磨具(研磨ディスク)が得られる。

2 そして、イ号方法は、次の(一)ないし(五)のとおり、本件発明の構成要件A、B、C、D、Eをすべて充足し、本件発明の効果(前記第二の一1(四))と同じ効果を奏するので、本件発明の技術的範囲に属するものであり、イ号装置はイ号方法の実施にのみ使用するものである。

(一) 本件発明の構成要件Aは、「受座上に裏面が上側となる中心に透孔を有する円板を供給する」というものであるところ、イ号方法は、「円板供給手段4により、上方部が開放状態の円板kを治具jに支持させた状態で基台1上面中央に移送して、基台1の受座21上に支持させる」(構成a)のであり、「裏面の周縁部全面に塗布された接着剤が上側となる中心に透孔k1を有する円板k」(イ号装置の構成〈1〉)というのであるから、本件発明の構成要件Aを充足することは明らかである。

(二) 本件発明の構成要件Bは、「上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を砥粒面が上側で、かつ側縁が互いにオーバーラップして重なるように一定のストロークで中心方向に送り込む」というものであるところ、イ号方法は、「この受座21の全周外側に、片面に砥粒面が上側で、かつ相隣接する側縁が上下にオーバーラップするよう放射状に配設された長尺の研磨帯tを円板k上に案内するガイドレール12、及びガイドリング18等からなる研磨帯供給ガイド」(イ号装置の構成〈3〉)と、「このガイドリング18内の長尺の研磨帯tを前記上方が開放された円板k上に一定のストロークで放射状に一斉に送り込むように設けられた水平シリンダー16、及び押え片15等からなる研磨帯送り装置3」(イ号装置の構成〈4〉)とにより、「基台1に支持された円板の周囲から中央に向けて、研磨帯送り装置3によって、所定幅の多数枚(通常六〇枚、七〇枚、八〇枚、九〇枚、一二〇枚の五種類)の研磨帯を一斉に送り込む」(構成b)というのであるから、本件発明の構成要件Bを充足することは明らかである。

(三) イ号方法は、本件発明の構成要件Cをすべて充足する。

(1) 本件発明の構成要件Cは「集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置すると共に、結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら供給前或いは供給後の上記円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に上記研磨帯を押し付ける」というものであるところ、これは、円板上に送り込まれた研磨帯(構成要件B)を、接着剤を間に挟んで円板に対して押圧し、この押圧力により研磨帯と円板とを接着剤を挟んで挟持することであり、その研磨帯を円板に対して上方から下方に向かって押圧力を加える手段として、「押え板」(研磨帯の上に載置されるもの、すなわち、研磨帯上に接し、研磨帯に対して上方から下方に向かって押圧力を加えるもの)を採用していることである。

イ号方法における、円筒状の加圧板53、押さえ手段81、更に乾燥工程中に使用する重錘は、いずれも研磨帯の上面に接し、研磨帯に対して上方から下方に向かって押圧力を加えるものであるから、これらはいずれも本件発明の構成要件Cにいう「押え板」に該当する。

したがって、イ号方法は、まず、構成要件Cのうちの「集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置する」という構成を備えている。

(2) 次に、構成要件Cでは、押え板は、研磨帯に対して上方から下方に向かって押圧力を加える手段であるから、この押圧力によって研磨帯と円板とを接着剤を挟んで挟持するために、上方からの押圧力を円板の下方で受ける手段、すなわち、押圧力を下方に逃がさないように結合する結合手段を必要とし、この結合手段を介して押え板との間に挟持力が生じるようにしている。

イ号方法では、円板kの下面を治具jの下部支持体32で支持しており、円板に加わる押圧力を、下部支持体32を備える治具jで受けており、円板が押圧力によって下方に逃げないように円板を治具jに結合させている。このように、下部支持体32を備える治具jが、押圧力を受ける結合手段としての作用を有することは、押え板の一つである押さえ手段81の押さえとの関係から一目瞭然である。すなわち、治具jがなければ、押さえ手段81との結合関係が解かれて円板kは落下してしまい、押圧力を受けることができない。

したがって、イ号方法における下部支持体32を備えた治具jは、本件発明の構成要件Cにいう「結合手段]にほかならない。

(3) 被告らは、本件発明の構成要件C中の「押え板」「結合手段」という用語の意味が不詳であるとし、発明の詳細な説明等を参酌すると「結合手段」とは「ネジ軸42を有する座板41とナット45とからなる結合手段」を指す旨主張する。

しかしながら、右(1)及び(2)のとおり、本件発明における「押え板」とは、研磨帯上に接し、研磨帯に対して上方から下方に向かって押圧力を加えるものをいい、この上方からの押圧力を円板の下方で受ける手段が「結合手段」であることは、構成要件Cの記載から明らかであって、これらの用語をそれ以上に限定解釈する必要性はない。イ号方法における円筒状の加圧板53、押さえ手段81、乾燥工程中に使用する重錘は、構成要件Cにいう「押え板」の構成を単に複数に分割しているだけのことである。

また、本件発明は、「結合手段」によって押え板と円板とを加圧するものではなく、「結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら」との文脈からも明らかなように、結合手段を介して押え板と円板とを結合し、それから押え板と円板とを挟持するというものであって、押え板と円板とを加圧するのは、「結合手段」を介して押え板と円板とを結合した後の工程である。そして、本件発明では、結合手段を介して結合した後の押え板と円板とを加圧する手段は、何ら限定されていないから、押え板を「重錘」によって構成してその自重を利用する方法であっても、押え板の上方に加圧装置を設置する方法であってもよいのであって、これらの適宜の加圧手段によって押え板と円板とを加圧する前に、押圧により押え板に加わる押圧力を受けて押え板と円板との間に挟持力が生じるようにしておく手段を「結合手段」と呼び、加圧手段の前工程としているのである。以上のように、本件発明においては、押え板と円板とを結合する工程と、押え板と円板とを加圧する工程とは別工程であり、被告らの主張は、本件発明にいう「結合手段」をそのまま加圧手段であると混同するものであって、当を得ない。

(4) 更に、構成要件Cでは、円板表面への接着剤の塗布は供給前又は供給後のいずれでもよいので、供給前に予め接着剤を円板kの裏面に塗布しておくというイ号方法は、当然、構成要件Cにおける接着剤の塗布に関する構成も備えている。

(四) 本件発明の構成要件Dは「各研磨帯の円板外周縁の外側部分を筒状の刃や旋回刃により切断する」というものであるところ、イ号方法は、「上記加圧装置2の加圧時に各研磨帯tの円板kの外周縁部より外側部分を切断するよう設けられた円筒刃61と円筒状刃受52等からなる研磨帯切断装置」(イ号装置の構成〈6〉)を備え、「基台1中央の受座21の周囲に、円筒刃61が、刃先を上方に向けて、受座21の周側面に取り付けられている。押し上げ筒部62は、摺動杆64を介してシリンダ63のピストンロッドに接続され、円筒刃61の周側面に対し摺動自在に配設されている。したがって、シリンダ63の作動によって、押し上げ筒部62が上昇し、切断後の研磨帯tを若干押し上げて円板k上に接着された研磨帯sと確実に切り離されることとなる。」(別紙説明書一四頁)というのであるから、構成要件Dを充足することは明らかである。

(五) 本件発明の構成要件Eは「接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨帯シートの固着円板を取り出す」というものであるところ、イ号方法も、乾燥工程に送って接着剤を硬化せしめた後に、結合手段たる治具jを取り除いて、研磨ディスクの完成品を得ているのであるから、構成要件Eを充足することは明らかである。

被告らは、構成要件Eにいう「接着剤の硬化後に結合を解除する」とは、結合を解除するまでは押え板を常時載置することを意味する旨主張するが、本件明細書には「接着剤の硬化後に結合を解除する」とは記載されているものの、「押え板」を常時載置するとは一切記載されていないのであって、押え板を押圧した際に、押え板と円板との間に挟持力が生じるようにしておく状態すなわち押え板と円板との結合状態を、接着剤が硬化するまで保持し、接着剤の硬化後に結合を解除するとしているのであって、接着剤が硬化するまでずっと加圧しておかなければならないというものではない。要するに、本件発明においては、接着剤が硬化するまでの間に、押え板と円板との間に挟持力を生じさせて研磨帯を円板に押し付ければよいのであり、挟持力を生じさせておく時間すなわち加圧時間は、使用する接着剤や加圧手段によって適宜決めればよいことである。そして、被告らは、イ号方法において、円板の下方を支持する治具が結合手段であることを認めており(後記二【被告らの主張】1(二))、この結合手段たる治具jを、押え板を構成する重錘とともに接着剤の硬化後に除去しているのである。

【被告らの主張】

イ号方法は、以下のとおり、本件発明の構成要件C及びEを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しない。

1(一) 本件発明の構成要件C中の「集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置すると共に、結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら」における「押え板」「結合手段」という用語の意味が不詳であり、このため、「結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持する」という文言の意味も不詳である。特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては、平成六年法律第一一六号による改正後の特許法七〇条二項が「願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して」解釈するものとすると規定しているが、この規定は、従来からの判例上確立した解釈法を法律上明らかにしたにすぎないものであるから、本件においても、本件明細書の「発明の詳細な説明」及び図面を参酌することにより、右の意味不詳の用語、文言の意義を解釈することになる。

(二) そして、本件明細書には、次の(1)及び(2)の二つの実施例が示されている。

(1) 「4は、上記塗布された接着剤2が上側となる円板1の直上で所定の間隙を存して対向するよう中心の結合手段を介し結合した押え板である。

上記の結合手段5は図示の場合支軸6の中途外周に鍔7を設けて、上記支軸6の上端側を透孔3に貫通させて鍔7により円板1の下面を受架し、次いで支軸6の上端と押え板4の中心から上方に突出する突軸8の下端側の凹入孔9と嵌め合わせると共に、上記凹入孔9の内周に配置してあるバネにより突出性の付与ボール10を、支軸6の突出部11に係合させて着脱自在に結合させてある。

このとき、押え板4の外側で周縁の下面を円板1の中央部に設けてある環状の突条12に接触させた板状板13を、上記板状板13の周縁部上面に複数のピン14の下端を固定し、かつピン14の上端側を押え板4に貫通させると共に、ピン14の上端頭部15により抜け落ちないように、又ピン14の外側に嵌装したバネ16の両端を押え板4と板状板13との両方に当接させて上記押え板4と円板1との間隙を一定に保つようになっている。」(本件公報4欄41行ないし5欄18行。以下「実施例(1)」という)

(2) 「又第6図で示したように座板41の上面中央から上方に突出するネジ軸42を透孔3に貫通させて上記座板41上に円板1を重ね、そして受座17上に座板41を載置したのち、送り装置24により各研磨帯21を送り込み、次いで第7図に示したようにネジ軸42に押え板43の中心透孔44を嵌装し、かつネジ軸42にナット45をねじ込んで上記押え板43により円板1上に各研磨帯21を押し付け、然るのち切断装置32により各研磨帯21を切断して製造する。」(本件公報6欄39行ないし7欄5行。以下「実施例(2)」という)

右の実施例(1)は、円板1と押え板4とを予め所定の間隔を保って結合手段5により結合させてから受座17に載置するという、本件明細書の特許請求の範囲第2項記載の製造方法及び第3項記載の製造装置の各発明に対応するものであり、第3図ないし第5図に図示されている(この実施例(1)では、研磨帯21を送り装置24によって送り込む前に、押え板4と円板1とを予め結合手段5により結合させてから、受座17に載置させるから、バネ16によって押え板4と円板1との間に研磨帯21を送り込むことができるよう間隙を一定に保つ必要があり、そのため、研磨帯21を円板1上に接着させるための加圧力は、研磨帯21の円板1周縁から突出している部分を切断装置32により切断する際に加圧装置29が「シリンダ30の作用により昇降体31を昇降させると共に上記昇降体31の降下にともない突軸8を下向きに加圧する」(本件公報6欄6行ないし9行)瞬間しか働かない。なぜなら、研磨帯21の切断後は、昇降体31は上昇し、押え板4と円板1とは結合手段5中のバネ16の作用により一定の間隙が保たれ、研磨帯21を円板1に加圧する力は働かなくなるからである。したがって、この実施例(1)は、研磨帯21の円板1に対する接着性が悪いという欠陥がある)。

実施例(2)は、円板1を受座17上に載置し、各研磨帯21を送り装置24により送り込んだ後に、押え板43を載置し、結合手段(ネジ軸42とナット45)によって結合するという、本件明細書の特許請求の範囲第1項記載の製造方法の発明、すなわち本件発明に対応するものであり、第6図及び第7図に図示されている(この実施例(2)は、円板1上に各研磨帯21を送り装置24により送り込んでから、押え板43を載置し、結合手段であるネジ軸42にナット45をねじ込んで押え板43により円板1上に各研磨帯21を押し付けることになるから、接着剤が乾燥するまで上記押し付け状態が保持されることになり、研磨帯21の円板1に対する接着性は良好であるが、各研磨帯21を円板1上に送り込んだ後に押え板43の中心透孔44をネジ軸42に嵌装し、かつネジ軸42にナット45をねじ込む作業を手作業で行う必要があるので、自動機とは到底いえないという欠陥がある)。

したがって、本件発明における押え板、結合手段は、第6図及び第7図並びに右(2)の本件明細書の記載(本件公報6欄39行ないし7欄5行)に示されている押え板43、結合手段(ネジ軸42、ナット45)である。すなわち、本件発明の構成要件Cにいう「押え板」とは、実施例(2)の、円板1上に各研磨帯21が送り込まれて後に研磨帯21上に載置される中心に透孔44を有する押え板43を指し、「結合手段」とは、座板41の上面中央から上方に突出するネジ軸42に押え板43の中心透孔44を嵌挿し、かつネジ軸42にナット45をねじ込んで上記押え板43により円板1上に各研磨帯21を押しつけるネジ軸42とナット45からなる結合手段を指す。また、「結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持する」とは、ネジ軸42にナット45でねじ込むことにより押え板43と円板1との間の研磨帯21を円板1に挟圧することを指し、その挟圧状態が接着剤の硬化後に結合を解除するまで保持されることは、「接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出す」という構成要件Eから明らかである。

(三) また、原告市口は、本件発明の特許出願の後の昭和六三年六月二〇日、発明の名称を「研磨具の製造方法及びその装置」とする改良発明について別の特許出願(特開平一-三二一一六九号公開特許公報〔乙第七号証〕)をしているところ、その明細書の発明の詳細な説明の欄における〔発明が解決しようとする課題〕の項において、「この重ねられた円板は、治具の中心から上方に向け突出して上記円板の中心貫通孔に貫通するネジ軸にねじ込むナットの締め付けにより治具の方向に押し付けられ、上記治具と円板とで研磨シートを挟み、接着剤の硬化後ナットを取り外して治具を回収するので、手数がかかって大量生産することができず、著しいコストの上昇原因となる問題があった。」と記載して、本件発明における「ネジ軸42を有する座板41とナット45とからなる結合手段」が有する欠陥の克服を解決課題として挙げ、その解決原理として、〔課題を解決するための手段〕の項において、「上記の課題を解決するために、この発明は、加熱受座上に裏面が上側となる中心に透孔を有する円板と、この円板の裏面全周の接着部分に重なる感熱接着剤とを供給したのち、上記円板の全周縁外側の放射状に配列してある長尺な研磨帯を、砥粒面が上側で、かつ側縁が互にオーバーラップして重なるよう一定のストローク中心方向に送り込み、然るのち集合状態の上記研磨帯を加熱加圧体により加圧しながら、円板に上記感熱接着剤を介し接着すると共に、加圧下に各研磨帯の円板外周縁外側部分を筒状刃や旋回刃により切断したのち、加熱加圧体による加圧を解除して各研磨シートの固着円板を取り出すことを特徴とする研磨具の製造方法」を提案している。すなわち、原告市口自身、本件発明にいう「結合手段」の何たるかとその欠陥を知った上で、本件発明の改良として、加熱受座11上に円板1とその上に感熱接着剤3を供給し、さらにその上に研磨帯18を送り込んでから加熱加圧体12を降下せしめて加熱加圧して短時間で研磨帯18を円板1に接着せしめることにより、結合手段を不要とする研磨具の製造方法について特許出願していることからしても、本件発明にいう「結合手段」は被告らのいう「ネジ軸42を有する座板41とナット45とからなる結合手段」を指すものであることが明らかである。

(四) 原告らは、本件発明における「押え板」とは、研磨帯上に接し、研磨帯に対して上方から下方に向かって押圧力を加えるものをいい、この上方からの押圧力を円板の下方で受ける手段が「結合手段」であることは、構成要件Cの記載から明らかであると主張する。

しかしながら、「押え板」だけでは、それが重錘でない限り、上方から下方に向かって押圧力を加えることはできない。「押え板」は、押圧力を加える際の単なる押さえにすぎず、押圧力は、ネジ軸42にナット45をねじ込んで押え板43と座板41とにより円板1上に各研磨帯を押し付けることにより加えられているものである。また、「結合手段」とは、一般に何かと何かを結びつける手段を指すところ、原告ら主張の構成要件Cの記載だけではそれが明らかでないのである。原告が主張するような、上方からの押圧力を円板の下方で受ける手段(イ号装置における治具jの下部支持体32、及び受座21)だけでは、何かと何かを結びつけて押圧力を加える作用を果たすことは不可能である。

原告らの主張は、特許請求の範囲第1項記載の発明すなわち本件発明と特許請求の範囲第2項記載の発明とを混同した主張である。本件発明にいう結合手段が加圧手段を兼ねているものであることは、「結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら・・・上記研磨帯を押し付け・・・」という記載(構成要件C)及び「・・・ネジ軸42にナット45をねじ込んで上記押え板43により円板1上に各研磨帯21を押し付け、・・・」という記載(本件公報7欄1行ないし3行)から明らかである。

2(一) 原告らは、イ号方法における「円筒状の加圧板53、押さえ手段81、更に乾燥工程中の重錘は本件発明の構成要件Cにいう「押え板」に該当する旨主張する。

しかしながら、右1のとおり、本件発明の構成要件Cにいう「押え板」とは、円板1上に各研磨帯21が送り込まれて後に研磨帯21上に載置される中心に透孔44を有する押え板43であり、かつ、接着剤が硬化するまでの間「押え板43」という同一部材が結合手段によって円板1と結合されているものであり、したがって、接着剤が硬化するまでは、研磨帯21の上が押え板43で覆われている結果、研磨帯21の配列状態を目視で確認することができない。

これに対して、イ号方法における円筒状の加圧板53は、研磨帯tの切断時に加圧装置2を作動させて、円板kとその上に送られてきた研磨帯tとを直接受座21とこの円筒状の加圧板53との間に挟んで押圧することによって円板kと研磨帯tとを接着するものであるから、本件発明でいうところの、昇降体31の降下にともない突軸8を下向きに加圧する加圧装置29内の中心にバネを介して装着されている断面凹型の加圧板に相当する部材であって、「押え板43」には該当しない。また、押さえ手段81の押さえは、「搬出手段8に押さえ手段81を装備した目的は、研磨帯sを装置外に搬出するに際して、押さえ手段81によって押さえておくことにより、搬出中に研磨帯sの位置がずれたり変形するのを防止することにある。」(別紙説明書二三頁)というのであるから、本件発明の押え板43のように研磨帯の送り込み後、接着剤が硬化するまで常時研磨帯を円板に対して加圧する部材ではない。更に、乾燥工程中に装着される重錘は、「研磨帯sの厚みが大きい場合、研磨帯sの接着を確実なものとするため、乾燥工程中研磨帯s上面にドーナツ状の重錘を載置する。」(別紙説明書二三頁)というのであって、必ず用いるものではなく、用いる場合も、乾燥工程中のみで、本件発明の押え板43のように研磨帯送り込み後接着剤が硬化するまでの間常時載置結合されている部材とは異なるものである。

したがって、イ号方法は、加圧及び切断が完了した研磨ディスクを搬出手段8によって搬出した後、乾燥工程に入るまでの間、円板k上に配列接着された研磨帯sの上部は本件発明にいう押え板43のような部材で覆われていないため、研磨帯sの配列状態が目視で確認でき、接着状態、配列状態が不良のものを取り除き、未だ非乾燥状態で剥離可能な研磨帯sを除去して円板kの再利用を図ることができるという、本件発明には存しない特有の効果を有している。

(二) また、原告らは、イ号方法における下部支持体32を備えた治具jは本件発明の構成要件Cにいう「結合手段」にほかならない旨主張する。

しかしながら、右1のとおり、本件発明の構成要件Cにいう「結合手段」とは、座板41の上面中央から上方に突出するネジ軸42に押え板43の中心透孔44を嵌挿し、かつネジ軸42にナット45をねじ込んで上記押え板43により円板1上に各研磨帯21を押しつけるネジ軸42とナット45からなる結合手段であり、すなわち、押え板43により研磨帯21を円板1に押圧挟持する手段である。これに対して、イ号方法における下部支持体32を備えた治具jは、単に下部で円板kを支持するだけであり、押え板により研磨帯を円板に押圧挟持する機能は有していない。

したがって、イ号方法における下部支持体32を備えた治具jは、本件発明の構成要件Cにいう「結合手段」及び「結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら・・・上記研磨帯を押しつけ、」に該当しないことは明らかであり、イ号方法は右構成を備えていない。

(三) 更に、イ号方法は、本件発明の構成要件Eにいう「接着剤の硬化後に結合を解除して」なる構成を欠いていることも歴然としている。

前記のとおり、本件発明にいう「結合手段」とは、ネジ軸42を有する座板41とナット45からなる結合手段であり、押え板43と座板41との間に円板1と研磨帯21とをネジ軸42にナット45をねじ込むことにより、挟圧して結合するものであるから、その結合を接着剤硬化後に解除するとは、結合を解除するまでは押え板を常時載置することを意味していることに疑いはない。

二  争点2(本件特許権は、いわゆる冒認出願に対して付与されたものであり、これに基づく原告らの請求は権利の濫用に当たるか)について

【被告らの主張】

1 以下のとおり、本件発明の真の発明者は、原告市口ではなく、被告三陽化工機の代表取締役中崎卓(以下「中崎」という)であり、本件特許権はいわゆる冒認出願に対して付与されたものであるから、原告らが本件特許権及びその専用実施権に基づいて、被告らに対し差止請求権を行使することは権利の濫用に当たり、許されない。

(一) 昭和六二年一一月三〇日、原告市口が被告三陽化工機を訪れた際、中崎は、原告市口から、従来の研磨ディスクの製造方法は円板状に研磨帯を治具を用いて手作業で貼り付けており手間がかかって効率が悪いので、何とか自動化できないかとの趣旨の相談を受けた。これに対して、中崎は、その場でガイドレールを作って研磨帯をシリンダーで一定寸法押せばできるはずだと答えたところ、原告市口から、是非そのアイデアを具体化して試作機を作ってほしいと依頼された。これが被告三陽化工機において研磨ディスクの製造装置を開発する契機となったものである。

中崎は、すぐさま具体的構想を練り始め、中崎自身の手書きスケッチにより、同年一二月末に乙第三号証、翌昭和六三年一月初旬に乙第四及び第五号証、同月中旬に乙第六号証の基本構想図を作成した。

同年三月上旬、中崎は、原告市口に考案図を示して装置の構造及び動きを詳細に説明したところ、直ちに製作にかかるように言われたので、これら基本構想図に基づき具体的な開発設計に入り、各部品図や総組立図の作成にとりかかった。そして、同年四月中旬に、結合手段を除き、外観図(総組立図)が完成した(乙第一号証の1・2)ので、同月二〇日、中崎が原告市口に研磨ディスク(「テクノディスク」と称していた)の自動製造装置の見積書を提出したところ、同月二六日、原告市口が被告三陽化工機を訪ねて中崎に外観図(総組立図)の提出を求め、中崎は右外観図(総組立図)を原告市口に手渡した。

そして、昭和六三年五月一四日、本件発明の特許出願が原告市口によってなされたのである。

以上のとおり、原告市口は、中崎に対し、本件発明に関する技術的課題の提示を行っただけであって、その技術的課題の解決原理や具体的解決手段はすべて中崎が解明し発明したものである。

(二) 昭和六三年四月二六日に中崎が手渡した外観図(総組立図)及びその際口頭で説明した事柄は、前記一【被告らの主張】1(二)記載の実施例(1)及び実施例(2)の欠陥が示すように発明として未だ完成されたものとはいえなかったのである。通常、組立図は機械完成納入時に取扱説明書とともに渡すものであるが、中崎は、原告市口に、大阪府から企業融資を受けるのに必要であるとしてせかされて外観図(総組立図)を手渡したものである。こうして、発明は未完成であるにもかかわらず、原告市口が右外観図(総組立図)及び口頭での説明に基づきそのまま特許出願したのが本件発明である。中崎は、その後も押え板及び結合手段(治具)の改良を進め、昭和六三年六月、押え板と円板とを予め結合手段により結合して受座に載置し、各研磨帯の送り込まれるまでの間は、押え板と円板との間に一定の間隙が保たれているが、研磨帯の切断時に加圧装置の昇降体が降下して突軸を下向きに加圧した後は、その加圧状態が接着剤が乾燥し結合手段の結合を解除するまで持続する結合手段の構造を完成した。その具体的構造は、平成八年五月一七日登録の特許第二五一八七六一号特許公報(乙二)記載のとおりであり、被告三陽化工機は、原告会社に対して、昭和六三年一二月一五日、右改良された結合手段を備えた装置(第一号機)を納入したのである。

(三) 原告らは、被告三陽化工機はもともと食品機械メーカーであって研磨具を製造するための機械の開発製造について何ら経験を有しないから、被告ら主張のような短期間で本件機械を開発することなど絶対に不可能である旨主張するが、これは、原告市口の機械知識に基づく勝手な想像にすぎない。被告三陽化工機は、食品機械だけではなく、広く各種精密機械の設計製作を手がけており、この程度の期間(そうはいっても、基本的な設計は四か月余りでできたが、具体的に完成するまでには約一年かかっている)で開発、設計、製作しなければ業務は成り立たないのである。

また、原告らは、原告市口は昭和六三年二月頃には既に具体的な解決手段を完成し、機械の製造の発注に際しても、その完成した発明内容を具体的に示し、その実機の使用についても詳細な指示をしたとか、同年三月末ないし四月初め、原告市口が作成したスケッチ類を中崎に示したと主張するが、これを裏付ける仕様書やスケッチ類などは一切提出されていない。

【原告らの主張】

以下のとおり、本件発明は原告市口が発明したものであるから、本件特許権はいわゆる冒認出願に対して付与された旨の被告らの主張は理由がない。

1(一) 原告市口が本件発明を完成するに至った経緯は、次のとおりである。

(1) ラジアルディスク製造機械の製造

本件機械はテクノディスク(円形の基盤上に、研磨布片を互いに重ね合わせながら、砥粒面を上にして放射状に固着した研磨器具)を製造するための機械であるが、原告会社は、昭和五二年頃からラジアルディスク(円形の基盤上に、研磨布片を垂直に固着した研磨器具)を商品として製造、販売しているものである。

当初、ラジアルディスクの製造は、成形されたラジアルディスク製造用のゴム型(検甲二)の溝に、予め自動裁断機で矩形に裁断された研磨布片を垂直に差し込み、その上から、接着剤が塗布された基盤を塗布面を下にして乗せ、ゴム型と研磨布片と基盤を一体として反転させた上、接着剤を乾燥させて研磨布片と基盤を一体に固着するという方法によって行われていた。この工程のうち、機械化されていたのは前段階としての研磨布片の裁断工程のみであり、その他の工程はすべて手作業で行われていた。

原告市口は、昭和五六年頃、右製造工程の自動化の構想を持ち、原告会社から株式会社福助テクノ(以下「福助テクノ」という)にその設計、製造を委託した。このラジアルディスク製造機械は昭和五九年頃には概ね完成し、ラジアルディスクの製造は効率的に行われるようになった。このラジアルディスク製造機械は、研磨布片を適切な大きさに裁断した上でゴム型へ導入し、これを研磨布片が落下しないようにした上で反転し、接着剤を塗布した基盤上に乗せ、圧着した上、その状態で乾燥工程に送るという工程を、基盤への接着剤の塗布も含め、すべて自動化したものである(甲三)。

(2) ラジアルディスクの半製品からのテクノディスクへの転用

他方、原告会社は、昭和五七年九月頃から、テクノディスクの製造販売を開始した。

このテクノディスクは、すでに古くなりつつあったラジアルディスクに比べて、市場における需要も多く商品としての将来性も高かったため、原告会社としては、生産の中心をラジアルディスクからテクノディスクに移行しつつあったが、その製造は依然全工程が手作業によっていた。すなわち、予め自動裁断機で矩形に裁断された研磨布片の砥粒面を、成形されたテクノディスク製造用のゴム型(検甲三)の上面に放射状につけられた多数の約二〇ないし三〇度の傾斜面に手作業によって整列させ、その上から接着剤を塗布した基盤を塗布面を下にして乗せ、ゴム型と研磨布片と基盤を一体として反転させた上、接着剤を乾燥させて研磨布片と基盤を一体に固着するという方法であった。このためラジアルディスクに比して生産効率は悪かった。

そこで、原告市口は、生産効率を向上させるため、製造途中のラジアルディスクを使ってテクノディスクを製造する方法、すなわち、基盤上に研磨布片を垂直に取り付けた乾燥途中の状態のラジアルディスクを取り出し、手作業によって研磨布片を約二〇度ないし三〇度の一定の角度に傾斜させ、その後加圧乾燥させるという方法を考え出した。

しかし、ラジアルディスク製造用のゴム型に刻まれた研磨布片を差し込む溝にはわずかながら遊びがあったため、垂直にしていたときには目立たなかった研磨布片の配列のわずかな不揃いが、手作業により傾斜させる段階で顕著に現れるようになった。この問題は、ラジアルディスク製造用のゴム型自体の構造に起因するため、この方法によりテクノディスクを製造する限り、改善することはきわめて困難であることが判った。結局、この方法は、昭和六〇年頃、実験段階のまま中止となった。

(3) テクノディスク専用の製造機械の開発の着手

原告市口は、昭和六〇年四月頃から、テクノディスク専用の製造機械の開発に着手し、前記の難点を解消するため、前記のテクノディスク製造用のゴム型を活用して研磨布の自動送り方式を組み合わせることにより、テクノディスクの製造を自動化する次のような方法を考案した。

まず、最大の問題点であった研磨布片の配列を整える方法については、基盤の周囲に基盤に接着すべき研磨布片の数だけ研磨布ロールを配置し、ガイドに沿わせてその先端を送り込み、これを押え板によって固定した上で、基盤の外周に沿わせて下方に配置した丸刃により研磨布を切断するという方法を考え出した。これは、本件発明の各構成要件を包摂するものである。

この時点で、原告市口は、研磨布を切断するため、プレス機によって研磨布ロールを切断するときに研磨布の厚さ分台座が下方へ移動するよう台座にスプリングを入れること、研磨布の厚さの差異や波状に重なっている状態に対応し、切断時の丸刃による負担を軽減し、切断における狂いをなくすため、押え板に柔らかいフェルトを貼付すること、接着剤の乾燥中に一定の圧力を加え続けるために押え板の上部にスプリングを取り付けること、研磨布を挿入する際に押え板と基盤との間に研磨布を滑り込ませる隙間を作るため、押え板の下にもスプリングを取り付けること等の細部まで具体的に考えていた。

原告市口は、この構想に基づき、実機の製造を依頼すべく、福助テクノにその内容を伝えたところ、技術的検討の上、原告市口が考えている方法により目的の機械を開発することが可能であろうとの返答を得た。しかし、福助テクノは、当時急激に人気が高まっていた自動車用アルミホイールの製造機械の製造に追われて忙しいとの理由で、受注に応じなかった。

(4) 課題の設定

この時点で本件機械の開発上残されていた問題点のうち主要なものは、

〈1〉 丸刃による切断をする場合、切断にはどの程度の圧力が必要か、

〈2〉 丸刃の耐久性に問題はないか、他に切断の方法はないか、

〈3〉 切断に必要なプレス機械を製造することができるか、製造できると

して、どの程度の費用が必要か、

という三つの点であった。

原告市口は、これら技術的問題の解決について福助テクノと協議しながら開発を進めるつもりであったが、右のとおり福助テクノの協力を得られないこととなったため、以後すべて原告市口個人の努力によって行うこととなった。

(5) 切断に必要な圧力の検討

まず、切断に必要な圧力については、昭和六一年初め頃からプレスメーカーである生野機械株式会社(以下「生野機械」という)にサンプルを持ち込んで相談し、同年三月頃、三〇トンのプレスで足りるとの結論を得た。

そこで、原告市口は、同年四月頃、生野機械から実験用として改造を加えた三〇トンプレス一台(甲六)を原告会社で買い受け、切断の実験を繰り返した末、十分実用に耐えるとの確信を得た。

(6) 切断の方法の模索

また、原告市口は、丸刃による切断方法と並行して、刃物の取替えや研磨を要しないレーザー光線や水圧による切断方法を検討した。

しかし、レーザー光線による切断については、松下電器産業株式会社に持ち込んで実験したところ、複数の研磨布を重ねて切断すると切断面が炭化して使いものにならず、水圧による切断については、岩谷産業株式会社に相談したところ、実験を行った結果切断は不可能であるとの返答を受け、結局、当時の技術水準では刃物によって切断する他はないとの結論に至った。

もっとも、刃物の耐久性の問題については、研磨布を切断するため磨耗が早く寿命は短くなるものの、研磨布によって常に刃先が研磨される結果、かえって切れのよい状態が持続することが判明し、実用上むしろ都合がよいとの結論に至った。

また、刃物の材質について、鉄の一種であり、刃物に向いているハイスを用いることも、この頃決定した。

(7) プレス機の決定

以上の検討を経て、原告市口は、昭和六二年初め頃から専用のプレス機の製造の可否の検討に入った。というのは、本件機械においては、丸刃が設置されるプレス機の中央部分を取り巻くように九〇セットもの研磨布ガイドやシリンダが取り付けられるため、プレス機の中心部から半径七五〇mm以上のフレームふところのある三〇トンプレス機が必要であったからである。

原告市口は、生野機械に、このようなフレームふところを持つ三〇トンプレスを製造することができるかどうか問い合わせたところ、生野機械からは、これを実現するには強度保持上、多額の費用がかかるため、四本柱タイプのプレス機にし、かつ柱同士の対向間隔を一五〇〇mm以上にすれば、目的が達成できるとのアドバイスを受けた。

これにより、プレス機についても、昭和六二年末頃には原告市口が意図しているとおりのものについて具体的な入手の目処が立った。

(8) 実験用治具等の製造

このようにして、当初特に問題と思われていた技術的課題がすべて解決でき、それとともに詳細な機械の仕様も固まったため、原告市口は、研磨布片を基盤上へ導入するためのガイドや実際に機械に組み込む丸刃を製作し、最終的な実験を行うこととした。

このとき製作したガイドは、内寸(透孔部)一一〇mm、外径一八〇mmの円盤上に、研磨布片を沿わせるための斜めの溝を放射状につけた治具の周囲に、長さ約二〇〇mmのステンレス製のガイドを放射状に取り付けたものであり、丸刃は、従来の実験に用いていた手加工の鏨に代えて、材質をハイスにしたものである。

原告市口は、昭和六二年一二月頃、これらの器具の製作を被告三陽化工機に依頼した。

(9) テストの実施と発明行為の完了

右各器具は、昭和六三年二月一七日に納品された(甲八)ので、原告市口は、すぐに原告会社内で、研磨布片の送り込みにどの程度の力が必要か、研磨布片が重なっても同様の結果が得られるか、裁断の状態はどうか、というような点についてテストを繰り返し、意図している方法でテクノディスクの製造が可能であるとの確信を得た。

(10) 被告三陽化工機への発注

原告市口は、昭和六三年三月末ないし四月初め、原告市口が作成したスケッチ類を中崎に示しながら機械の仕様を詳細に説明し、製造費用の見積もりを求めた。

その際、原告市口は、中崎に対し、原告市口が提供した治具、プレス機械、原告市口が中崎に仕様説明をしながら作成交付したスケッチのみを使用し、中崎の考えを一切交えないで製作するよう申し入れ、同時に、その結果、機械が十分に機能しないこととなっても代金は全額支払うことを約束した。これは、被告三陽化工機が研磨器具の製造機械について全く経験がなく、研磨布の性質についての知識すら全く有していないので、そのような者のアイデアを加味されるとかえって機械に支障を来すと考えたことによる。

また、原告会社は、これに先立ち、同年三月頃、生野機械にプレス機を発注し、生野機械の営業担当者を被告三陽化工機へ赴かせ、そのプレス機についての説明をさせた。

同年四月下旬、中崎が図面と見積書を持参したので、原告市口が図面の内容を確認したところ、原告市口の意図どおりのものとなっていたので、原告市口は、原告会社がプレス機を無償提供するとの前提で、機械本体の代金額を概ね見積額どおりの約六五〇万円と定めて、正式に被告三陽化工機に製造の発注をした。

(11) 中崎に対する確認

右発注に先立ち、原告市口は、中崎に対して、発注する機械は長い時間と莫大な費用をかけて開発してきたものであり、これからもより多くの費用と時間をかけていくこととなるので、原告会社以外には勝手に製造、販売してもらっては困る、ついては第三者には絶対に製造、販売しない旨一筆入れてほしいと申し入れたところ、中崎は、もちろん第三者に製造、販売するようなことは絶対にしない、互いに近所同士であり、同じライオンズクラブの会員でもあるので、無条件に信用してほしいと答えたので、原告市口は一筆とることをやめたのである。

(二) 右(一)のとおり、原告市口は、本件発明について昭和六〇年四月頃には具体的な課題設定を終え、その後技術的な課題解決に向けて努力を重ねた結果、遅くとも被告三陽化工機に機械の製造を発注する前の昭和六三年二月頃には既に具体的な解決手段を完成していたのである。

機械の製造の発注に際しても、原告市口は、その完成した発明内容を具体的に示し、その実機の仕様についても詳細な指示をしており、被告三陽化工機は、その指示に従って本件発明にかかる装置の実機の製造を担当したにすぎないから、本件発明は原告市口の発明にかかるものであり、中崎は何らの発明行為も行っていない。

2 被告らの主張によれば、被告三陽化工機は、昭和六二年一一月三〇日に本件機械の開発について相談を受け、昭和六三年三月上旬頃にはその基本構想をまとめ、同年四月中旬に図面を書き上げたことになるが、被告三陽化工機は、もともと食品機械メーカーであって研磨器具を製造するための機械の開発製造について何ら経験を有しないから、そのような短期間で本件機械を開発することなど絶対に不可能である。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(イ号方法は、本件発明の技術的範囲に属するか)について

イ号方法(別紙説明書二記載のとおりの方法)が、本件発明の構成要件A、B及びDを充足することは明らかである(被告らも争っていない)ので、以下、イ号方法が本件発明の構成要件C及びEを充足するか否かについて検討する。

1(一)  まず、甲第一号証(本件公報)によれば、特許請求の範囲第1項には、「押え板」及び「結合手段」に関して次の記載があることが認められる。

ア 「集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置する」(構成要件C)

イ 「結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挾持しながら供給前或いは供給後の上記円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に上記研磨帯を押し付け」(構成要件C)

ウ 「接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出す」(構成要件E)

また、同号証によれば、本件明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、〔作用〕の項に、「押え板」及び「結合手段」に関して次の記載があることが認められる。

エ 「結合手段を介し円板と押え板とを結合したのち、受座上に上記円板を載置する。」(4欄22行ないし23行)

オ 「各ガイド内の研磨帯を送り装置により一定のストロークで送り出して、上記円板と押え板との間隙に挿入したのち、加圧装置により押え板を加圧して、上記加圧行板と円板とで研磨帯を挟圧すると共に、円板の裏面周縁部全面に塗布してある接着剤を介し上記円板の裏面に各研磨帯を接着させる。」(同欄24行ないし30行。なお、「上記加圧行板」は「押え板」の誤記と認められる)

カ 「上記切断後に加圧装置による加圧を解除したのち、押え板と共に円板を取り出し、接着剤の硬化後結合手段による結合を解除して、研磨シート付の研磨具を得る」(同欄33行ないし35行)

以上の各記載によれば、本件発明における「押え板」は、〈1〉集合状態の研磨帯の上に載置される、〈2〉結合手段を介して円板と結合される、〈3〉円板とで研磨帯を挟持しながら供給前或いは供給後の円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に研磨帯を押し付ける、〈4〉接着剤の硬化後に、円板との結合が解除される、というものであり、集合状態の研磨帯の上に載置されてから、接着剤の硬化後に円板との結合が解除されるまで同一の部材であることを前提としているものである。また、「結合手段」は、〈1〉予め押え板と円板とを結合する、〈2〉そして、受座上への円板載置・押え板と円板との間隙への研磨帯挿入・加圧装置による押え板の加圧・研磨帯切断.加圧解除・押え板と円板の取出しに続いて、接着剤の硬化後に解除される、というものであるところ、本件発明は製造方法にかかる発明であり、結合手段により押え板と円板とが結合されてから「接着剤の硬化後に結合を解除する」(構成要件E)までの工程において結合を解除する旨の記載はないから、結合手段による押え板と円板との結合状態は、集合状態にある研磨帯の上に押え板が載置されてから、研磨帯の円板外周縁の外側部分が切断され、接着剤が硬化するまで維持されるものと解さなければならない。

そして、「発明の詳細な説明」の欄の前記〔作用〕の項の「加圧装置により押え板を加圧して、上記加圧行板と円板とで研磨帯を挟圧すると共に、円板の裏面周縁部全面に塗布してある接着剤を介し上記円板の裏面に各研磨帯を接着させる。」との記載によれば、研磨帯を挟圧するのは加圧装置による加圧作用の結果であり、挟圧することにより円板の裏面に各研磨帯を接着させるのであるから、本件発明の構成要件C「結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら供給前或いは供給後の上記円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に上記研磨帯を押し付け」にいう「挟持しながら・・・押し付け」るのは加圧装置の加圧による作用であると解するのが相当である。

(二)  本件発明の実施例についてみるに、甲第一号証によれば、「発明の詳細な説明」の欄の〔実施例〕の項には、実施例(1)及び(2)が示されている。

(1) 実施例(1)は、第1図ないし第5図に示されるものであり、「上記の結合手段5は図示の場合支軸6の中途外周に鍔7を設けて、上記支軸6の上端側を透孔3に貫通させて鍔7により円板1の下面を受架し、次いで支軸6の上端と押え板4の中心から上方に突出する突軸8の下端側の凹入孔9と嵌め合わせると共に、上記凹入孔9の内周に配置してあるバネにより突出性の付与ボール10を、支軸6の突出部11に係合させて着脱自在に結合させてある。」(本件公報4欄44行ないし5欄8行)、「このとき、・・・上記押え板4と円板1との間隙を一定に保つようになっている。」(5欄9行ないし18行)、「上記の各研磨帯21は、円板1と押え板4との間隙に送り装置24により所定の長さに送り込まれる。」(同欄33行ないし35行)という「押え板」及び「結合手段」を用いて、「結合手段5を介し接着剤2と塗布ずみ円板1と押え板4とを結合させて、受座17上に上記円板1を載置する。次に送り装置24により各研磨帯21を中止方向に送り込んで上記円板1と押え板4との間の間隙に上記研磨帯21の先端側を挿入する。その後に加圧装置29により押え板4を加圧して、円板1の接着剤2塗布面に研磨帯21を押し付けると共に、切断装置32により上記各研磨帯21の円板1の周縁外側の部分を切断し、接着剤2を介し円板1に研磨シートAを貼り付ける。その後に加圧を解除し、押え板4と共に取り出した円板1を、炉内処理或いは放置し、接着剤を硬化させ、然るのち結合手段5による結合を解除して押え板4を回収すると、第8図で示したような研磨具Bが得られる。」(6欄24行ないし39行。なお、「中止方向」とあるのは「中心方向」の誤記と認められる)というものである。

これらの記載によると、実施例(1)は、円板1と押え板4とが予め一定の間隙を保って結合されており、その間隙に研磨帯21が挿入されるものであるから、本件発明の「受座上に・・・円板を供給し」(構成要件A)、「そして上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を・・・中心方向に送り込み」(構成要件B)、「そして集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置する」(構成要件C)という構成要件を充足するか問題になる。しかしながら、円板1は、押え板4と予め結合されているとはいえ、その間に一定の間隙が保たれており、研磨帯が送り込まれる前に供給されるから、構成要件A及びBを充足し、次いで加圧装置が作動して押え板を下方へ押すことにより押え板4が研磨帯と接してその自重がかかった状態になったときに、押え板4が集合状態にある研磨帯の上に載ったということができ、更に加圧装置が作動することにより研磨帯を押圧して挟持した状態になるということができるから、構成要件Cを充足し(更に、構成要件D及びEも充足し)、したがって、実施例(1)は、本件発明の実施例に当たるということができる。

(2) 実施例(2)は、第6図及び第7図に示されるものであり、「第6図で示したように座板41の上面中央から上方に突出するネジ軸42を透孔3に貫通させて上記座板41上に円板1を重ね、そして受座17上に座板41を載置したのち、送り装置24により各研磨帯21を送り込み、次いで第7図に示したようにネジ軸42に押え板43の中心透孔44を嵌装し、かつネジ軸42にナット45をねじ込んで上記押え板43により円板1上に各研磨帯21を押し付け、然るのち切断装置32により各研磨帯21を切断して製造する。」(本件公報6欄39行ないし7欄5行)というものである。

右記載中には何が結合手段であるかについて明示的な記載はないが、全体の記載及び図面(第6図及び第7図)によれば、座板41、ネジ軸42、ナット45からなる構成が結合手段に該当し、円板1の上に研磨帯を供給した後に、集合状態にある研磨帯の上に押え板43を載置し、その後、ナット45を軽くねじ込むことにより押え板43と円板1とが結合状態となり、ナット45を更にねじ込むことにより押え板43と円板1とで研磨帯21を挟持して円板に研磨帯を押し付けるのであり、研磨帯の円板外周縁の外側部分を切断し接着剤が硬化するまで結合手段による結合を維持するものであるということができる。したがって、実施例(2)は、本件発明の構成要件A、B、C、D及びEを充足し、本件発明の実施例に当たるということができる。

(3) 被告らは、実施例(1)は特許請求の範囲第2項記載の製造方法及び第3項記載の製造装置の各発明に対応するものであり、実施例(2)のみが本件発明の実施例に当たる旨主張して、実施例(1)が本件発明の実施例に当たることを否定し、このことを前提に、本件発明における「押え板」とは、実施例(2)の、円板1上に各研磨帯21が送り込まれて後に研磨帯21上に載置される中心に透孔44を有する押え板43を指し、「結合手段」とは、座板41の上面中央から上方に突出するネジ軸42に押え板43の中心透孔44を嵌挿し、かつネジ軸42にナット45をねじ込んで上記押え板43により円板1上に各研磨帯21を押しつけるネジ軸42とナット45からなる結合手段を指すと主張するが、前記(1)のとおり実施例(1)も本件発明(特許請求の範囲第1項記載の発明)の実施例に当たるから、右被告らの主張が、本件発明にいう「押え板」、「結合手段」の構造は右実施例(2)の具体的な構造のものに限定されるという趣旨であれば、採用することができない。

(三)(1)  原告らは、本件発明における「押え板」とは、研磨帯上に接し、研磨帯に対して上方から下方に向かって押圧力を加えるものをいい、この上方からの押圧力を円板の下方で受ける手段が「結合手段」である旨主張し、また、本件発明においては、適宜の加圧手段によって押え板と円板とを加圧する前に、押圧により押え板に加わる押圧力を受けて押え板と円板との間に挟持力が生じるようにしておく手段を「結合手段」と呼び、加圧手段の前工程としている旨も主張するが、その趣旨は必ずしも明確でないものの、本件発明における「押え板」及び「結合手段」についての前記(一)の説示に反する限度で採用することができない。

(2)  原告らは、本件明細書には「接着剤の硬化後に結合を解除する」とは記載されているものの、「押え板」を常時載置するとは一切記載されていないのであって、要するに、本件発明においては、接着剤が硬化するまでの間に、押え板と円板との間に挟持力を生じさせて研磨帯を円板に押し付ければよいのであり、挟持力を生じさせておく時間すなわち加圧時間は、使用する接着剤や加圧手段によって適宜決めればよいことである旨主張する。

確かに、特許請求の範囲第1項には「押え板」を常時載置するとは記載されていないが、前示のとおり、特許請求の範囲第1項全体の記載及び「発明の詳細な説明」の欄の〔作用〕の項の記載に照らして、結合手段による押え板と円板との結合状態は、集合状態にある研磨帯の上に押え板が載置されてから、研磨帯の円板外周の外側部分が切断され、接着剤が硬化するまで維持されるものと解さなければならないのである。

2(一)  当事者間に争いのないイ号方法(別紙説明書二記載の方法)の構成を、本件発明の構成要件に対応させて分説すると、次のとおりになると認めちれる。

a 受座21上に、裏面が上側となる中心に軸孔k1を有し予め接着剤が塗布された円板kを、治具jに支持させた状態で供給する。

b 上記円板kの全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯tを、砥粒面が上側でかつ側縁が互いにオーバーラップして重なるように、一定のストロークで中心方向に送り込む。

c-1 集合状態の上記研磨帯tの上に円筒状の加圧板53を載置すると共に、

c-2 円板kと研磨帯tを受座21と円筒状の加圧板53との間に挟んで押圧することによって円板kと研磨帯tを接着する。

d-1 その状態で各研磨帯tの円板外周縁の外側部分を円筒刃61により切断する。

d-2 加圧板53を上昇させると同時に、研磨ディスク(円板k及び研磨帯s)を治具jと共に同速度で上昇させ、次いで、研磨ディスクと治具jの上昇を停止させ、加圧板53のみ初期位置まで上昇させる。

d-3 研磨ディスクを上部が開放された状態で治具jに支持させたまま搬出手段8により装置外へ搬出する。このとき研磨帯sは、押さえ手段81と円板kとの間で挟持された状態となる。

e-1 押さえ手段81の押さえを解除して上方を開放し(非挟持状態)、接着剤の非乾燥状態において、作業員の目視によって接着状態、配列状態を確認する(接着状態、配列状態の不良のものを取り除き、非乾燥状態で剥離可能な研磨帯sを除去して円板kの再利用を可能にする)。

e-2 乾燥工程で完全に接着する。研磨帯sの厚みが大きい場合、乾燥工程中、研磨帯s上面にドーナツ状の重錘を載置する。

(二)  まず、原告らは、本件発明の構成要件Cにいう「押え板」について、イ号方法における、円筒状の加圧板53、押さえ手段81、更に乾燥工程中に使用する重錘は、いずれも研磨帯の上面に接し、研磨帯に対して上方から下方に向かって押圧力を加えるものであるから、これらはいずれも右「押え板」に該当するものであり、「押え板」の構成を単に複数に分割しているだけのことであると主張する。

右(一)によれば、イ号方法において、円筒状の加圧板53は、集合状態の研磨帯tの上に載置され(構成c-1)、円板kと研磨帯tを受座21との間に挟んで押圧することによって円板kと研磨帯tを接着し(構成c-2)、研磨帯tの円板外周縁の外側部分の切断後は上昇して(構成d-2)、研磨ディスクは上部が開放された状態となるものであり、押さえ手段81は、この押圧・切断終了後の研磨ディスクを上部が開放された状態で治具jに支持させたまま、搬出手段8により装置外へ搬出する際に円板kとの間で研磨帯を挟持し(構成d-3)、装置外へ搬出後、押さえを解除するものであり、更に重錘は、上方を開放し(非挟持状態)、接着剤の非乾燥状態において、作業員の目視によって接着状態及び配列状態を確認した(構成e-1)後の乾燥工程において、研磨帯sの厚みが大きい場合、乾燥工程中、研磨帯s上面に載置するものである(構成e-2)。したがって、イ号方法において押圧作用をする円筒状の加圧板53、押さえ手段81及び重錘は、それぞれ、その構造も押圧作用をする時期も異なるものである(加えて、重錘は、イ号方法における必須の構成ではない)。

前記1(一)説示のとおり、本件発明における「押え板」は、集合状態の研磨帯の上に載置されてから、接着剤の硬化後に円板との結合が解除されるまで同一の部材であることを前提としているものであるから、右のとおり構造も押圧作用をする時期も異なる円筒状の加圧板53、押さえ手段81及び重錘をもって本件発明における「押え板」に該当するということはできず、他に、イ号方法において右「押え板」に相当するものが存するとは認められない。

(三)  また、原告らは、イ号方法では、円板kの下面を治具jの下部支持体32で支持しており、円板に加わる押圧力を下部支持体32を備える治具jで受けており、円板が押圧力によって下方に逃げないように円板を治具jに結合させている(すなわち、治具jがなければ、押さえ手段81との結合関係が解かれて円板kは落下してしまい、押圧力を受けることができない)から、イ号方法における下部支持体32を備えた治具jは本件発明の構成要件Cにいう「結合手段」にほかならない旨主張する。

右(一)によれば、イ号方法においては、下部支持体32を備えた治具jは、常時円板kを支持した状態にあり、集合状態の研磨帯tの上に円筒状の加圧板53を載置し(構成c-1)、円板kと研磨帯tを受座21と円筒状の加圧板53との間に挟んで押圧することによって接着し(構成c-2)、その状態で各研磨帯tの円板外周縁の外側部分を円筒刃61により切断する(構成d-1)までの工程では、治具jにより、円板kと原告らが「押え板」に該当すると主張する加圧板53(但し、該当するといえないことは前記(二)説示のとおりである)とを結合しているといえなくもなく、右切断後に加圧板53を上昇させ(構成d-2)、研磨帯sを押さえ手段81と円板kとの間で挟持した状態で装置外へ搬出し(構成d-3)、接着剤の非乾燥状態において押さえ手段81のおさえを解除する(構成e-1)までの工程では、治具jにより、円板kと原告らが「押え板」に該当すると主張する押さえ手段81(前同様)とを結合しているといえなくもない。

しかしながら、本件発明における結合手段による押え板と円板との結合状態は、前記1(一)説示のとおり、集合状態にある研磨帯の上に押え板が載置されてから、研磨帯の円板外周縁の外側部分が切断され、接着剤が硬化するまで維持されるものと解されるところ、加圧板53と押さえ手段81とはいうまでもなく別の部材であり、円板kとの結合状態が集合状態にある研磨帯の上に「押え板」が載置されてから、研磨帯の円板外周縁の外側部分が切断され、接着剤が硬化するまで維持されているとはいえないし、結合状態は、接着剤の非乾燥状態において解除されるのであって、接着剤の硬化後に解除されるものではないから、イ号方法における下部支持体32を備えた治具jは本件発明の構成要件Cにいう「結合手段」に該当するということはできず、他にイ号方法において右「結合手段」に相当するものが存するとは認められない。

(四)  そして、イ号方法は、右(三)のとおり接着剤の非乾燥状態において押さえ手段81のおさえを解除し(構成e-1)、次の乾燥工程で完全に接着する(構成e-2)のであって、接着剤の硬化後に結合を解除するのではないから、本件発明の構成要件Eを充足しないことも明らかである。

3  以上によれば、イ号方法は、本件発明の構成要件C及びEを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。

二  結論

したがって、イ号方法が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする原告らの請求は、争点2(本件特許権はいわゆる冒認出願に対して付与されたものであり、これに基づく原告らの請求は権利の濫用に当たるか)について検討するまでもなく、理由がないといわざるをえない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

説明書

一 装置の構成

〈1〉 裏面の周縁部全面に塗布された接着剤が上側となる中心に透孔k1を有する円板kと、該円板kを上方が開放された状態で指示する治具jと、

〈2〉 この治具jに支持された円板kを下方から受ける受座21と、

〈3〉 この受座21の全周外側に、片面の砥粒面が上側で、かつ相隣接する側縁が上下にオーバーラップするよう放射状に配設された長尺の研磨帯tを円板k上に案内するガイドレール12、及びガイドリング18等からなる研磨帯供給ガイドと、

〈4〉 このガイドリング18内の長尺の研磨帯tを前記上方が開放された円板k上に一定のストロークで放射状に一斉に送り込むように設けられた水平シリンダー16、及び押え片15等からなる研磨帯送り装置3と、

〈5〉 上面に放射状に研磨帯tを接着剤を介して配設された円板kを受座21との間で直接挟圧するように設けられた油圧シリンダ2、及び円筒状の加圧板53等からなる加圧装置2と、

〈6〉 上記加圧装置2の加圧時に各研磨帯tの円板kの外周縁部より外側部分を切断するよう設けられた円筒刃61と円筒状刃受52等からなる研磨帯切断装置とからなる研磨具の製造装置。

二 右一記載の装置及びこれを用いて研磨具を製造する方法の詳細な説明

右一記載の装置は、中央の基台1と、その上方に配位された加圧装置2と、治具jに上方が開放された状態で載置した円板kを基台1の受座21に供給する円板供給手段4と、基台1の側面から上面にかけて配位された研磨帯送り装置3と、基台1と加圧装置2とに配位された研磨帯切断手段と、円板k上に研磨帯sを放射状に配列接着した研磨ディスクを次の配列状態確認工程へ搬出する研磨ディスク搬出手段8とから構成されており、この装置を用いて研磨ディスクを製造する方法は、概ね次のaないしeのとおりである。

a 円板供給手段4により、上方部が開放状態の円板kを治具jに支持させた状態で基台1上面中央に移送して、基台1の受座21上に支持させる。なお、円板kには予め接着剤が塗布されている。

b 基台1に支持された円板の周囲から中央に向けて、研磨帯を送り装置3によって、所定幅の多数枚(通常六〇枚、七〇枚、八〇枚、九〇枚、一二〇枚の五種類)の研磨帯を一斉に送り込む。

c 加圧装置2を作動させて、円板kと、その上に送られてきた研磨帯tとを直接受座21と円筒状の加圧板53との間に挟んで押圧することによって、円板kと研磨帯tとを接着する。但し、接着剤は、乾燥して硬化するまで、完全な接着力を示さないため、この段階では、研磨帯tは簡単に外れる状態となっており、次の乾燥工程を経て完全に接着することとなる。

d 円筒状の刃受け52と円筒刃6lとからなる研磨帯切断装置とにより、円板の周囲からはみ出している各長尺の研磨帯tを切断する。

e 加圧装置2を作動させて、上記cの押圧を解除して、研磨ディスク搬出手段8により、研磨帯sが配列接着された円板を基台1外に運び出し、次の配列状態確認工程、及び乾燥工程を経て研磨具(研磨ディスク)が得られる。

更に、研磨帯送り装置3から詳細に説明すると、例えば円板に九〇枚の研磨帯を放射状に接着する場合、その数だけの研磨帯が用意される。より具体的には、幅略一ないし三cmのサンドペーパーの長尺状の研磨帯が九〇個のプーリ11に巻かれた状態で、基台1の外周側面に配位されている。もちろん、この研磨帯の本数は、研磨ディスクの径や用途に応じて適宜変更しうる。なお、以下の説明では、切断されていない研磨帯については、符号tを用い、切断後の短い研磨帯については符号sを用いる。

図2は、研磨帯tの配置状態を示す平面図であり、基台1の周辺に各プーリ(図示せず)が配位され、各研磨帯tが中央に向けて集中している状態を示すものである。このように、各研磨帯tが中央に向けて集中しているため、中央では、各研磨帯tは、互いに重なり合った状態となる。言い換えれば、各研磨帯tは、周辺部分では幅方向に水平状態で送られるが、中央では幅方向に傾斜した状態で送られ、かつ、幅方向に隣り合う研磨帯tと少しずつずれた状態で重ね合わされる。

図3は、研磨帯tがこの周辺部分から中央に移行する部分を示すもので、各プーリ11から引き出された各研磨帯tは、ガイドレール12に通される。このガイドレール12は、長手方向に傾斜した登り勾配部分13と、長手方向に水平な非勾配部分14とからなる。そして図4のAに示すように、この登り勾配部分13は、幅方向に水平状態となっているが、非勾配部分14に至る部分12aで徐々に捩じられることによって、図4のBに示すように、非勾配部分14では幅方向に傾斜した状態となっている。

このガイドレール12は、上面が開放されており、このガイドレール12を通過中に、研磨帯tの送りがなされる。

より詳しくは、図3に示すように、ピストンロッドの先端にゴム等の押さえ片15を取り付けた水平シリンダ16が、各ガイドレール12の非勾配部分14の上方に配位されている。そして、この水平シリンダ16は、垂直シリンダ17によって昇降可能に支持されている。

この研磨帯tの送り動作について説明すると、まず、垂直シリンダ17のピストンロッドが降下することによって、水平シリンダ16とその押さえ片15が降下して、押さえ片15がガイドレール12の非勾配部分14の内の研磨帯tを、上方から押さえる。

次に、水平シリンダ16のピストンロッドが伸長して、押さえ片15がガイドレール12内の研磨帯tを、基台上の円板kに向けて送る。

送った後は、水平シリンダ16及び垂直シリンダ17が初期状態に戻り、次の送り動作に備える。

以上によって、研磨帯tは、一斉に中央に向けて送られ、その後間歇的にこの動作が繰り返される。

なお、非勾配部分14は幅方向に傾斜した状態となっている。そのため垂直シリンダによって押さえ片15を下方に押圧する方向は、非勾配部分14の幅方向の傾斜に対応させて傾斜した方向(図4のBの矢印方向)に押圧するよう構成されている。

次に、図3に示すように、ガイドレール12の非勾配部分14の先端には、ガイドリング18、18が配位されている。各ガイドリングは、図5に示すように、ドーナツ状をなしており、その下面には、傾斜した多数の溝19が形成されており、幅方向に傾斜した状態で送られてくる研磨帯tを、その傾斜状態を維持したまま、基台の中央まで案内する。

次に、基台1の概要について説明する。

この基台1の中央には、図8に示すように、円板kを受ける受座21が配設されている。この受座21は、治具jに支持されている円板を載置して支持するもので、凹部を形成することにより、その円板がずれないように構成されている。

治具jは、図6及び図7に示すように、軸31と、この軸31に挿通された研磨帯ストッパ35及び下部支持体32とからなる。軸31の下端寄りにはフランジ33が形成され、軸の上端寄りには被係止部34が形成されている。下部支持体32は、軸31の上端から挿通され、フランジ33上に当接する。

円板kの装着は、円板kの軸孔k1に、軸31を挿通し下部支持体32上に円板kを載置して支持させ、その上から研磨帯ストッパ35を軸31を挿通し円板kに載置するだけである。このとき円板kは、研磨帯sを貼り付ける面を上にして、軸に挿通される。なお、円板kの研磨帯sを貼り付ける面(図示では上面)に、予め接着剤を塗布しておく。研磨帯ストッパ35は、中央に軸31の挿通孔を有する円盤状をなし、円板kの研磨帯sを貼り付ける面の内側に位置し、その外周面が各研磨帯sの先端に当接して、研磨帯sの位置決めを正確なものとする。すなわち、前述のように、水平シリンダ16のピストンロッドが伸長して、押さえ片15がガイドレール12内の研磨帯tを、基台の中央方面に送るが、送られた研磨帯tは、その先端が研磨帯ストッパ35に当接して、より正確な位置に停止することになる。

この治具jに支持された円板kは、上面が開放された状態で円板供給手段4によって、基台1外から基台中央の受座21に移送され、軸31が受座21の軸挿入孔に挿入される。

図8において円板供給手段4は、治具jの適宜位置を着脱可能に摘むチャック401と、このチャック401を上下動させる垂直シリンダ402と、垂直シリンダ402を支持する回転アーム403と、回転アーム403を回転させる回転シリンダ(図示せず)とからなる。

そして、チャック401によって治具jを基台1外で摘み、回転シリンダの作動により基台中央の受座21に移送し、垂直シリンダ402の作動により降下させて、軸下端を受座21の軸挿入孔に挿入する。

以上によって、円板kの配設が完了し、前述のとおり、研磨帯tが送られることによって、円板kの研磨帯sを貼り付ける面(図示では上面)の中央に研磨帯の先端が収束した状態で、全部の研磨帯tが放射状に配位され、加圧及び研磨帯tの切断を待つ(図示9参照)。なお、研磨帯ストッパ35は、円板kの研磨帯sを貼り付ける面の内側に位置し、その外周面が各研磨帯sの先端に当接している。したがって、研磨帯ストッパ35を用いた場合でも、円板kの研磨帯sを貼り付ける面(配位する面)の上方は、開放された状態にある。

次に、図9ないし図11に基づき、加圧装置2について説明する。加圧装置2は、基台1の中央上方に配位された円筒状の加圧板53と、この加圧板53を昇降せしめるための油圧シリンダ2とからなる。また、この円筒状の加圧板53の外周には研磨帯tを切断する際の円筒刃61を受ける円筒状刃受52が摺動可能に設けられている。円筒状加圧板53は、中央上部には皿バネ54が配設され、この皿バネ54に抗して円筒状加圧板53は円筒状刃受52に対して相対的に上昇する。図10は、円筒状加圧板53が研磨帯t上に当接した状態を示し、図11は、当接後に円筒状加圧板53が円筒状刃受52に対して相対的に上昇した状態を示す。なお、円筒状加圧板53の内部には、治具jの軸31上部及び研磨帯ストッパ35が挿入されうる空洞部56が形成されている。また、円筒状加圧板53の下端には、フェルト製の緩衝部材(図示せず)を設けておき、押圧の際に研磨帯tを傷つけないように配慮されている。

次に、図10及び図11に基づき研磨帯tの切断方法を説明すると、基台1中央の受座21の周囲に、円筒刃61が、刃先を上方に向けて、受座21の周側面に取り付けられている。押し上げ筒部62は、摺動杆64を介してシリンダ63のピストンロッドに接続され、円筒刃61の周側面に対し摺動自在に配設されている。したがって、シリンダ63の作動によって、押し上げ筒部62が上昇し、切断後の研磨帯tを若干押し上げて円板k上に接着された研磨帯sと確実に切り離されることとなる。

加圧装置と切断装置の作動状態を説明すると、円板k上面に全部の研磨帯tが放射状に配位された状態(図9参照)で、昇降手段が作動し、加圧板53が円筒状刃受52と共に降下する。この降下状態を、より詳細に説明すると、まず、加圧板53が、研磨帯t上面に当接する(図10参照)。そして、更に降下すると、皿バネ54が収縮して緩衝作用を果たしつつ、円筒状刃受52のみが下降し(前述の表現で言えば、当接後に加圧板53が円筒状刃受52に対して相対的に上昇する)、降下が完了した状態で、加圧板53の下端と円筒状刃受52の下端とが、同一レベルとなる。この下降により、受座21上面に載置された下部支持体32と、加圧板53の下端との間で、研磨帯tと円板kとが挟まれ押圧され、研磨帯tは円板kの上面に押し付けられることになる。なお、図8ないし図14においては、下部支持体32が薄いため図示されていないが、図6及び図7から明らかなように、円板kは下部支持体32上に載置され、この下部支持体32は受座21上に載置される。ここで、皿バネ54を適当な強さのものとしておくことによって、研磨帯t同士を、くっつき合わせることができる。すなわち、各研磨帯tは、上面に砥粒を有しており、各研磨帯tが重ねられた状態で上下から押圧されることによって、下方の研磨帯t上面の砥粒が上方の研磨帯t下面に食い込み、接着剤を介さずとも、研磨帯t同士をくっつき合わせることができる。

そして、円筒状刃受52は、治具j及びこれに接着された円板kの外側に位置してこれらには作用しない。この刃受52は、基台1中央の受座21上面より突出した円筒刃61との間に、研磨帯tを挟んで、これを切断する(図11参照)。前述のように、この切断により研磨帯tの円板k上に残された部分を、研磨帯sと呼んで説明する。

上記切断が完了した後、図12に示すように、加圧装置(刃受52及び加圧板53)が上昇する。これと同時に、円板kを治具jと共に上昇させる円板上昇手段が設けられている。この円板上昇手段は、治具jの真下に配位された軸支持部71と、この軸支持部71を上昇させるシリンダ72とを備え、シリンダ72のピストンロッドの伸長によって軸支持部71が上昇し、軸支持部71に押し上げられるようにして、治具j及び円板kが上昇する。より詳しくは、軸支持部71には、治具jの軸31の下端を受容する凹部73が形成され、軸31の下端が凹部73に挿入された状態で、上昇する。この上昇は、加圧装置2の上昇と同じ速さで行われ、研磨ディスク(すなわち、円板kとその上に接着された研磨帯s)が、治具jの下部支持体32と加圧板53の下端との間に挟まれた状態で、上昇する。これにより、加圧装置2の上昇に際して、研磨帯sと円筒刃61との縁が確実に切れることになる。すなわち、加圧装置2のみを先に上昇させ、次に、研磨ディスク(円板k及び研磨帯s)を上昇させると、切断されたとはいえ、研磨帯sと円筒刃61とがくっついている場合があり、研磨ディスクの円板kから研磨帯sが外れたり、ずれたりしてしまうおそれがある。そこで、研磨ディスク(すなわち、円板kとその上に接着された研磨帯s)を、治具jの下部支持体32と加圧板53の下端との間に挟んだ状態で上昇させることにより、研磨帯sが円筒刃61から確実に、かつ位置ずれを生ずることなく、上昇させることができる。

なお、治具jと研磨ディスクの上昇は僅かでよく、刃物から少し上昇した時点で、その上昇は停止し、後は、加圧装置2のみが初期位置まで上昇する。すなわち、治具j及び研磨ディスクの上昇手段の上昇長さは、刃受52及び加圧板53の上昇長さよりも小さく設定されている。

加圧及び切断が完了した研磨ディスクは、上部が開放された状態で治具jに支持されたまま、搬出手段8によって装置外に搬出される。この搬出手段8は押さえ手段81を備え、この押さえ手段81によって、円板kとの間に研磨帯sを挟持した状態で搬出を行い、搬出後の配列状態確認工程において押さえ手段81の押さえを解除して非挟持状態、すなわち上方を開放して作業員の目視によって接着状態及び配列状態を確認できるようにしているのである。そして、接着状態、配列状態が不良のものを取り除き、非乾燥状態で剥離可能な研磨帯sを除去して円板kの再利用を可能にしている。

この搬出手段8をより詳しく説明すると、押さえ手段81、81は図15、17から理解されるように、前後に一対設けられ、各押さえ手段81は円筒形を半分に分割した形状をなし、一対で下部が開放した略筒形状を形成する。そして、押さえ手段81、81の下端面81aが、研磨帯sを上方から下方に押さえる。各押さえ手段81は、エアシリンダ82の駆動手段で上下動する。このエアシリンダ82は、中空の支持枠83を介して、上板84に支持されている。このエアシリンダ82のピストンロッド85は先端で二股に分かれ、二股に分かれた二本のロッド85aの下端が上板84を摺動可能に貫いて、押さえ手段81に固定されている。しかして、ピストンロッド85が伸縮することによって、押さえ手段81が上下動する。

上板84、84も前後に一対設けられ、各上板84は平面視略半円形をなし、一対で略円形を形成する。この円形の中央には、図16に示すように、治具jの軸31を挟持する挟持部84a、84aが形成されている。また、上板84、84は開閉腕86、86の先端に取り付られ、この開閉腕86、86は、この基端に設けられたエアチャック87等の回動手段によって回動して開閉する。エアチャック87は上下動及び水平移動可能の移動手段(図示せず)によって、上下及び水平に移動可能となっている。

搬出手段8の動きを説明すると、加圧装置2の上昇が完了した時点で、移動手段(図示せず)によって水平移動させられた搬出手段8が、治具jの軸31に横方向から接近する。このとき、開閉腕86、86及び上板84、84は図16の矢印方向に回動して開いており、両上板84、84間の中央挟持部84a、84aに治具jの軸が入る。そして、エアチャック87等の回動手段が作動して、開閉腕86、86及び上板84、84が閉じて、治具jの軸31を挟持する。次に、各上板84に設けられたエアシリンダ82のピストンロッド85が伸長して、二股に分かれた二本のロッド85a、85aが各押さえ手段81を下方に移動させる。これにより、押さえ手段81、81の下端面81aが、研磨帯sを上方から下方に押さえて、研磨ディスク(研磨帯sを放射状に配列した円板k)を挟持する。

この挟持した状態を維持しつつ、移動手段(図示せず)によって搬出手段8全体が上昇し、治具jの軸31を軸支持部71から抜き出す。そして、移動手段(図示せず)によつて搬出手段8全体が水平移動及び上下動して、装置外に治具j、研磨ディスク(円板k及び切断された研磨帯s)を搬出する。搬出後においては、エアシリンダ82のピストンロッド85が収縮して、押さえ手段81、81の押圧を解除し、エアチャック87等の回動手段が作動して、開閉腕86、86及び上板84、84が開いて、治具jの軸31の挟持を解除する。

搬出手段8に押さえ手段81を装備した目的は、研磨帯sを装置外に搬出するに際して、押さえ手段81によって押さえておくことにより、搬出中に研磨帯sの位置がずれたり変形するのを防止することにある。特に、厚みの大きな研磨帯sを用いた場合には、円板k上に斜めに配列した研磨帯sが立ち上がってくるといった恐れがあるが、この押さえ手段81によって、このような不都合を防止することができる。また、加圧装置2による加圧時間を短縮しても、また、搬出速度を速くしても、その間に研磨帯sの位置がずれたり変形する恐れがないため、その分、製造加工時間を短縮でき、生産性の向上に寄与する効果がある。なお、研磨帯sの厚みが大きい場合、研磨帯sの接着を確実なものとするため、乾燥工程中研磨帯s上面にドーナツ状の重錘を載置する。

なお、図15において、61aは、刃物61を受座21の外周に固定しておくためのボルトを示す。また、図15において、21aは、受座21の内周に突出形成された治具支持部を示す。この治具支持部21aは、治具jのフランジ33を下方から支持して、治具jが下方に落下してしまうことを防止する。この治具支持部は、符号は付していないが、図8ないし図14にも、表されている。

三 図面の説明

【図1】 装置を示す全体図

【図2】 同研磨帯の配置状態を示す平面図

【図3】 同研磨帯送り手段を示す側面図

【図4】 Aは同研磨シート送り手段のガイドレールの登り勾配部分13の縦断面図、Bは同研磨シート送り手段のガイドレールの非勾配部分14の縦断面図

【図5】 Aは同ガイドリングの底面図、Bは同側面図

【図6】 同治具jの斜視図

【図7】 同治具jの断面図

【図8】 ないし【図14】 装置の動きの変化を示す要部断面図

【図15】 同搬出手段8の要部を拡大した一部断面図

【図16】 同搬出手段8の平面図

【図17】 同搬出手段8の側面図

以上

【図1】

〈省略〉

【図2】

〈省略〉

【図3】

〈省略〉

【図4】

〈省略〉

【図5】

〈省略〉

【図6】

〈省略〉

【図7】

〈省略〉

【図8】

〈省略〉

【図9】

〈省略〉

【図10】

〈省略〉

【図11】

〈省略〉

【図12】

〈省略〉

【図13】

〈省略〉

【図14】

〈省略〉

【図15】

〈省略〉

【図16】

〈省略〉

【図17】

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 平5-21716

〈51〉Int.Cl.5B 24 D 13/16 18/00 識別記号 庁内整理番号 7234-3C 7234-3C 〈24〉〈44〉公告 平成5年(1993)3月25日

〈54〉発明の名称 研磨具の製造方法およびその装置

〈21〉特願 昭63-117922 〈55〉公開 平1-289673

〈22〉出願 昭63(1988)5月14日 〈43〉平1(1989)11月21日

〈72〉発明者 市口裕一 奈良県奈良市学園緑ケ丘2丁目3451番地の2

〈71〉出願人 市口裕一 奈良県奈良市学園緑ケ丘2丁目3451番地の2

〈74〉代理人 弁理士 鎌田文二

審査官 佐藤洋

〈57〉特許請求の範囲

1 受座上に裏面が上側となる中心に透孔を有する円板を供給し、そして上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を砥粒面が上側で、かつ側縁が互にオーバーラツプして重なるように一定のストロークで中心方向に送り込み、そして集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置すると共に、結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挾持しながら供給前或いは供給後の上記円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に上記研磨帯を押し付け、然るのち各研磨帯の円板外周縁の外側部分を筒状の刃や旋回刃により切断し、接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出すことを特徴とする研磨具の製造方法。

2 裏面の周縁部全面に塗布された接着剤が上側となる中心に透孔を有する円板と、周縁部下面と接着剤塗布面とに所定の間隙を形成する押え板とをそれぞれの中心部分で結合手段を介し結合したのち、受座上に円板を供給し、次いで上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を砥粒面が上側でかつ側縁が互にオーバーラツプして重なるよう一定のストローク中心方向に送り込みながら上記円板と押え板との間に挿入し、その後に押え板を加圧して接着剤塗布面に研磨帯を押し付け、又各研磨帯の円板外周縁の外側部分を筒状の刃や旋回刃により切断し、接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出すことを特徴とする研磨具の製造方法。

3 裏面の周縁部全面に塗布された接着剤が上側となる中心に透孔を有する円板と、周縁部下面と接着剤塗布面とに所定の間隙を形成するようそれぞれの中心を結合手段を介し結合させた押え板と、上記円板を受架するよう設けられた受座と、この受座の全周外側の各放射線上に片面の砥粒面が上側で、かつ対向する側縁が上下でオーバーラツプするよう設けられた長尺な研磨帯の供給ガイドと、この各ガイド内の長尺な研磨帯を前記円板と押え板との間隙に一定のストロークで送り込むように設けられた送り装置と、押え板と円板とで研磨帯を挟圧するよう設けられた上記押え板の加圧装置と、上記加圧装置による加圧時各研磨帯の円板外周縁の外側部分を切断するよう設けられた切断装置とから成る研磨具の製造装置。

発明の詳細な説明

〔産業上の利用分野〕

この発明は、多数枚の研磨シートを放射状に配列集合させた研磨具の製造方法およびその装置に関するものである。

従来の研磨具は、第11図に示すように多数枚の矩形研磨シート51の側縁をオーバーラツプさせると共に、放射状に配列集合させて形成した環状研磨板52と、中心にドライブ軸の貫通孔を有するフアイバーボード等で形成されて上記環状研磨板52の片面に接着剤を介し貼り合せた円板53とで構成されている。

〔発明が解決しようとする課題〕

上記のような構成の研磨具を製造する場合、治具の上面放射状の各溝に研磨シートを一枚毎順序よく手作業により嵌め込みながら並べ、並べ終ると環状研磨板上に裏面に接着剤の塗布された円板を重ねる。

この重ねられた円板は、治具の中心から上方に向け突出して貫通孔に貫通するネジ軸にねじ込んであるナツトの締め付けにより治具の方向に押し付けられ、上記治具と円板とで研磨シートを挟み込むので、手数がかかつて大量生産することができず、著しいコストの上昇原因となる問題があつた。

又裁断された矩形研磨シートを放射状に配列するので、研磨シートの外周方向に向く端縁の1つのコーナーが第11図に示すように突出するので、上記の突出コーナーにより研磨面から立ち上がつている面を傷付けたり、或いは突出コーナーがカールして砥粒面を被う等の問題があつた。

〔課題を解決するための手段〕

上記の課題を解決するために、この発明は受座上に裏面が上側となる中心に透孔を有する円板を供給し、そして上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を砥粒面が上側で、かつ側縁が互にオーバーラツプして重なるように一定のストロークで中心方向に送り込み、そして集合状態の上記研磨帯の上に押え板を載置すると共に、結合手段を介し結合された押え板と円板とで研磨帯を挟持しながら供給前或いは供給後の上記円板裏面の周縁部全面に塗布してある接着剤に上記研磨帯を押し付け、然るのち各研磨帯の円板外周縁の外側部分を筒状の刃や旋回刃により切断し、接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出すことを特徴とする研磨具の製造方法と、裏面の周縁部全面に塗布された接着剤が上側となる中心に透孔を有する円板と、周縁部下面と接着剤塗布面とに所定の間隙を形成する押え板とをそれぞれの中心部分で結合手段を介し結合したのち、受座上に円板を供給し、次いで上記円板の全周縁外側で放射状に配列してある長尺な研磨帯を砥粒面が上側でかつ側縁に互にオーバーラツプして重なるよう一定のストローク中心方向に送り込みながら上記円板と押え板との間に挿入し、その後に押え板を加圧して接着剤塗布面に研磨帯を押し付け、又各研磨帯の円板外周縁の外側部分を筒状の刃や旋回刃により切断し、接着剤の硬化後に結合を解除して各研磨シートの固着円板を取り出すことを特徴とする研磨具の製造方法と、裏面の周縁部全面に塗布された接着剤が上側となる中心に透孔を有する円板と、周縁部下面を接着剤塗布面とに所定の間隙を形成するようそれぞれの中心を結合手段を介し結合させた押え板と、上記円板を受架するよう設けられた受座と、この受座の全周外側の各放射線上に片面の砥粒面が上側で、かつ対向する側縁が上下でオーバーラツプするよう設けられた長尺な研磨帯の供給ガイドと、この各ガイド内の長上尺な研磨帯を前記円板と押え板との間隙に一定のストロークで送り込むように設けられた送り装置と、押え板と円板とで研磨帯を挾圧するよう設けられた上記押え板の加圧装置と、上記加圧装置による加圧時各研磨帯の円板外周縁の外側部分を切断するよう設けられた切断装置とから成る研磨具の製造装置とから成る。

〔作用〕

結合手段を介し円板と押え板とを結合したのち、受座上に上記円板を載置する。

次に各ガイド内の研磨帯を送り装置により一定のストロークで送り出して、上記円板と押え板との間隙に挿入したのち、加圧装置により押え板を加圧して、上記加圧行板と円板とで研磨帯を挾圧すると共に、円板の裏面周縁部全面に塗布してある接着剤を介し上記円板の裏面に各研磨帯を接着させる。

又上記加圧時に作用する切断装置の円筒刃により各研磨帯の円板外周縁の外側部分を切断する。

上記切断後に加圧装置による加圧を解除したのち、押え板と共に円板を取り出し、接着剤の硬化後結合手段による結合を解除して、研磨シート付の研磨具を得る。

〔実施例〕

図において、1は裏面の周縁部全面に接着剤2を塗布した中心に透孔3を有する金属製等の円板である。

4は上記塗布された接着剤2が上側となる円板1の直上で所定の間隙を存して対向するよう中心の結合手段を介し結合した押え板である。

上記の結合手段5は図示の場合支軸6の中途外周に鍔7を設けて、上記支軸6の上端側を透孔3に貫通させて鍔7により円板1の下面を受架し、次いで支軸6の上端と押え板4の中心から上方に突出する突軸8の下端側の凹入孔9と嵌め合わせると共に、上記凹入孔9の内周に配置してあるバネにより突出性の付与ボール10を、支軸6の突出部11に係合させて着脱自在に結合させてある。

このとき、押え板4の外側で周緑の下面を円板1の中央部に設けてある感情の突条12に接触させた板状板13を、上記板状板13の周縁部上面に複数のピン14の下端を固定し、かつピン14の上端側を押え板4に貫通させると共に、ピン14の上端頭部15により抜け落ちないように、又ピン14の外側に嵌装したバネ16の両端を押え板4と板状板13との両方に当接させて上記押え板4と円板1との間隙を一定に保つようになつている。

17は載置した円板1を支承する受座である。

上記の受座17は、図示の場合上端にストツバ18を有する複数のガイドピン19により昇降自在に設けると共に、バネ20により上方に押し戻し、上方から加圧力が作用すると押し上げられるようになつている。

又受座17の全周外側の各放射線上には、長尺な研磨帯21の片面の砥粒面が上側で、かつ対向する側縁が上下でオーバーラツプして案内された多数本のガイド22が設けられている。

上記のガイド22は、第2図に示すように溝形材を用いて、開口が上側で放射線上に配列し、又長尺な研磨帯21は、第1図に示すようにロール巻で、架台23に支持させてある。

更に上記の各研磨帯21は、円板1と押え板4との間隙に送り装置24により所定の長さに送り込まれる。

上記の送り装置24は、図示の場合第1シリンダ25により昇降する倒立L形のアーム26と、このアーム26の先端に支持させた第2シリンダ27と、この第2シリンダ27のピストン軸先端に設けた爪28とで構成され、第1シリンダ25の収縮作用によりアーム26を降下させて研磨帯21に爪28を押し付けたのち、第2シリンダ27の伸長作用により中心方向に前進スライドする爪28を介し研磨帯21を送り込み、上記送り込み完了後に第1シリンダ25を伸長作用させて爪28を上昇させ、その後に第2シリンダ27の収縮作用により爪28を後退させるようにしたが、ロール送り等を採用してもよい。

29は押え板4の加圧装置である。

上記の加圧装置29は、図示の場合第3シリンダ30の作用により昇降体31を昇降させると共に上記昇降体31の降下にともない突軸8を下向きに加圧するようになつている。

32は円筒刃33を使用して各研磨帯21の円板1周縁から突出している部分を切断する切断装置である。

上記切断装置32は、図示の場合受座17の外側に円筒刃33を配置し、そして昇降体31の降下にともなう加圧時受座17と共に円板1を押し下げながら、上記昇降体31の刃受34により円筒刃33に研磨帯21を押し付けて切断するようにしたが、昇降体31側に円筒刃を設けて切断するようにしてもよい。

尚円筒刃33にかえて刃物を旋回させて切断してもよい。

次に、上記構成の製造装置を用いた製造方法を説明する。

まず、結合手段5を介し接着剤2と塗布ずみ円板1と押え板4とを結合させて、受座17上に上記円板1を載置する。

次に送り装置24により各研磨帯21を中止方向に送り込んで上記円板1と押え板4との間の間隙に上記研磨帯21の先端側を挿入する。

その後に加圧装置29により押え板4を加圧して、円板1の接着剤2塗布面に研磨帯21を押し付けると共に、切断装置32により上記各研磨帯21の円板1の周縁外側の部分を切断し、接着剤2を介し円板1に研磨シートAを貼り付ける。

その後に加圧を解除し、押え板4と共に取り出した円板1を、炉内処理或いは放置し、接着剤を硬化させ、然るのち結合手段5による結合を解除して押え板4を回収すると、第8図で示したような研磨具Bが得られる。又第6図で示したように座板41の上面中央から上方に突出するネジ軸42を透孔3に貫通させて上記座板41上に円板1を重ね、そして受座17上に座板41を載置したのち、送り装置24により各研磨帯21を送り込み、次いで第7図に示したようにネジ軸42に押え板43の中心透孔44を嵌装し、かつネジ軸42にナツト45をねじ込んで上記押え板43により円板1上に各研磨帯21を押し付け、然るのち切断装置32により各研磨帯21を切断して製造する。

〔効果〕

以上のように、この発明に係る研磨具の製造方法およびその装置によれば、放射状に配列した長尺な研磨帯を中心方向に送り込んで円板の接着剤塗布上面に重ね、そして加圧により接着剤塗布面に上記研磨帯を押し付けて接着すると共に、各研磨帯の円板周縁外側の部分を切断するので、研磨具の生産が著しく向上し、かつ均一な製品を得ることができる.

又円筒刃や旋回刃により研磨帯を切断するので、研磨シートの外周縁の一つのコーナーが突出した問題をなくすことができる。

図面の簡単な説明

図面はこの発明に係る装置の実施例を示すもので、第1図は一部切欠正面図、第2図は同上の横断平面図、第3図は同上の要部を示す縦断拡大正面図、第4図は研磨帯を送り込んだ縦断正面図、第5図は加圧時の縦断正面図、第6図及び第7図は押え板を人手により取付た縦断正面図、第8図は同上で製造された研磨具の斜視図、第9図は同縦断正面図、第10図は同拡大下面図、第11図は従来の研磨具の拡大下面図である。

1……円板、2……接着剤、3……透孔、4……押え板、5……結合手段、17……受座、21……研磨帯、22……ガイド、23……架台、24……送り装置、29……加圧装置、32……切断装置、33……円筒刃、34……刃受。

第2図

〈省略〉

第1図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

第9図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第8図

〈省略〉

第10図

〈省略〉

第11図

〈省略〉

特許公報

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例